あの頃の私は、本当に苦しかった。
好きな仕事をしていた。
子供達に英会話を教えることも、フィットネスインストラクターとして働くことも大好きだったし、二人の子どもたちとの毎日は、忙しくも楽しかった。
自分で選んだ人生だった。
それなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
時間もなければ、お金もない。
パートナーとの関係もうまくいかず、両親とは連絡さえ取っていなかった。
誰かに頼ることも、助けてもらうことも考えられなかった。
毎日、目の前のことで精いっぱい。
一生懸命生きているはずなのに、心のどこかが満たされなかった。
そんなある日、ふと思った。
「私、本当は何がしたかったんだろう?」
そう考えたとき、忘れていた自分の気持ちを思い出した。
ああ、そうだった。
私、海外に行きたかったんだ。
世界中を旅してみたかった。
海外で仕事をすることにも、ずっと憧れていた。
そして、子どもたちにも、もっと広い世界を見せてあげたかった。
いつの間にか、日々の暮らしに追われて、自分の夢をどこかに置いてきてしまっていた。
でも、思い出してしまったら居ても立っても居られなくなった。
「世界を旅して生きる。」
そう決めた。
どうやって?
そんなことは、まったくわからなかった。
海外に行くお金もなければ、子どもたちを預けられるあてもない。
それでも、その言葉を何度もノートに書いた。
人にも話した。
ホワイトボードにも書いた。
何度も、何度も。
今思えば、あれは誰かに宣言していたというより、自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。
一冊の本

当時は、よく本屋さんに行っていた。
ある日、一冊の本が目に留まった。
『天使のレクチャー』。
なぜだかわからない。
ただ、その表紙に惹かれた。
手に取って、表紙を見つめ、読まずに棚に戻した。
欲しくなってしまうことがわかっていたからだ。
翌日にも、本屋さんに行って、また手に取った。
そしてその次の日も本屋さんへ行った。。
どうしても欲しくなって、思い切って買った。
確か1,600円くらいだったと思う。
あの頃の私には、勇気のいる買い物だった。
家に帰って読み始めると、不思議な気持ちになった。
「この人、私のことを知っている。」
そんなはずはないのに。
私が心の奥で感じていたこと。
自分でもうまく言葉にできなかったこと。
それが、そこには書かれているように感じた。
どうしても、この人に会いたい。
そう思った。
著者のブログを探して、メールを送った。
「会いに行きたいです。」
アメリカに暮らす、会ったこともない人に。
今考えると、ずいぶん大胆なことをしたと思う。
でも、あのときは不思議と迷わなかった。
そして、返事が届いた。
「是非、来てください。」
そのひと言で、身体に稲妻が走った。
何度も読み返した。
まだ、何ひとつ解決していなかった。
お金のことも、子どもたちのことも。
それなのに、遠い遠い夢のまた夢の世界が、一挙に現実化するものとして私の中で動き出したのだ。
あの頃の私は、まだ知らなかった。
この小さな一歩が、その後の人生に、どれほどたくさんの出会いを運んでくれることになるのかを。